『学校のみんなと同じなら大丈夫?』

 学校でみんなと同じ授業を受け、提携した予備校や教育プログラムで周囲と同じであることに安心している、チェーン展開の個別指導塾で学生講師と馴れ合いの授業を楽しんでいる、大手予備校でただ座っているだけで勉強をした気になる、惰性で映像授業に通っている。果たして、このようなことでみんなに差をつけることができるのでしょうか。小学生から中学生、中学生から高校生になれば当然個人の学力は向上しているはずですが、全体の中での自分の位置はどれだけ変わっているでしょうか。学校のクラスのような小集団ではありません。全国レベル、世代レベルではどうでしょう。みんなと同じことを同じやり方でやっていても、この相対的序列は変わらないでしょう。何か手を打たなければなりません。大学進学はもとより就職、将来の人生設計という観点で今の自分の学力を客観的に分析しなければなりません。そして、どのような行動をとるかに今後の人生が左右されます。

 学生の大半は無名企業に入ります。2020年大卒の有効求人倍率は1.83倍です。しかし、これは平均であって、従業員5000人以上の企業は0.42倍、従業員300人未満では8.62倍です。「売り手市場」と言われていますが、大手は「買い手市場」です。また、大卒就職希望者は44万人、企業採用数は人気大手2万人(全体の4%)、主要大手5万人、無名大手・中堅中小25~30万人です。一方、大卒全体55万人のうち、超上位校卒業生は4.4万人(東大・京大0.6、旧帝大1.5、早慶1.8、一橋・東工大・東外大0.5万)、MARCHは3万人、関関同立3万人です。人気大手の採用数2万に対し、超上位校だけで4.4万人が押し寄せる計算になります。

 次に学歴による生涯賃金を見てみましょう。

図1 男性の学歴別生涯賃金。賃金データは厚生労働省・平成28年賃金構造基本統計調査から、退職金データは平成25年就労条件総合調査から推定(日経参照)

図2 女性の学歴別生涯賃金。賃金データは厚生労働省・平成28年賃金構造基本統計調査から、退職金データは平成25年就労条件総合調査から推定(日経参照)

図3 東京大学・早稲田大学・慶応義塾大学出身者の生涯賃金比較。各大学の卒業生の就職先データ(一部上場企業のみ、上位20社まで)を基にAFGが試算(日経参照)

 

 このような現実を踏まえた上で自分の進むべき道を決めなければなりません。将来、数ある選択肢から自ら選ぶことのできる少数派になるか、自分に選択権などなく、多数の中から品定めをされる選択肢の1つになるか。何もしなければ縮小していく自分の可能性を少しでも押し広げるために、よく考えて行動する必要があります。「みんなと同じ」では上位の少数派に食い込むことはできません。現在の序列を変えることはできません。

 大学入試は「定員厳格化」(2019年度は定員の1.1倍に合格者数抑制)が進んでいます。そのため本来早慶に合格していた層がMARCHレベルの大学で苦戦を強いられています。この傾向は更に強まる可能性が高いと言われています。一方で18歳人口の減少により大学全入時代となり、大学の4割は定員割れをおこしています。AO入試や推薦入試で誰でも入れる大学は存在します。この二極化の先に何が待っているのか考えなければなりません。

 現状打破のキーになるのは「誰に教わるか」という人的でアナログな視点です。デジタルで人工的なものを求めるほど同質化してゆきます。周囲に流されず、自分自身で考え、行動することが上位少数派、つまり一流になるための第一歩ではないでしょうか。もちろん学力向上だけが全てではありません。AIの導入により15年後には今ある仕事の49%が消滅するという説もあり、弁護士などの士業や銀行などの金融業も、その影響からは逃れられません。単純で短絡的な思考やプロセスはAIに代替されていくことを想定するならば、「複雑」な思考過程から逃げてはいけません。また、多様性のある集団での「協働」はパターン化が難しいと考えられます。自分の中身を知識、思考、経験により濃く複雑なものに磨き上げ、他人と協働するのに必要なコミュニケーション能力、人を動かす影響力、共感力を身につけ、総合的な人間力を育んでゆく。この「複雑」と「協働」が、これから先の将来、AIを利用する側になるためのヒントではないでしょうか。